【監督アンジェリーナ・ジョリー】最初に父が殺された

おすすめ度:★★★★★★★★★★(10満点)

最初に父が殺された タイトル(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

アンジェリーナ・ジョリー監督作品 「最初に父が殺された」

「最初に父が殺された」 2017年
監督:アンジェリーナ・ジョリー
出演:スレイモック・サリウム、コンペーク・ポーク、ソチェアータ・スウェン、
デラ・ヘン、ソティア・クオン、スレイネア・オン、キムハク・ムン、チェンダ・ラン、
ニカ・サルン、ニタ・サルン
脚本:ルオン・ウン、アンジェリーナ・ジョリー
Netflix(ネットフリックス)で視聴する

 

 


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「最初に父が殺された」 あらすじ

1975年4月17日、ポルポト派が政権を握り、カンボジアの首都プノンペンにポルポト率いる軍隊「クメール・ルージュ」がトラックに乗って入ってきた。内戦が終わったと信じたプノンペンの人々は笑顔で「クメール・ルージュ」を迎え、その様子を見た少女ルオンは「なんのお祝い?」と無邪気に聞く。政府の役人として働いていたルオンの父親は、その時国に何が起こり、そしてこれから自分たちの身に何が起こるのかある程度知っていたため、家族は逃げる準備を始めていた。そして幼いルオンは何もわからないまま、家族と歩き続ける。この物語は”ある少女の記憶”として少女ルオンの視点でポルポトがカンボジアを支配した恐怖と殺戮の時代を描く。

最初に父が殺された クメール・ルージュを眺めるルオン(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

 

「最初に父が殺された」は実話に基づく物語

1975年から1979年にかけてポルポトが支配するカンボジアを描く物語ではあるけれど、7歳のルオンの視点で描かれるため何が起こっているのか詳しくはわからないまま物語は進んでいく。カメラもルオンの身長を想定しているであろう低い位置からシーンを撮ることが多く、大きな大人が銃を持っている様子をより不安に見せる。何も聞かされないまま、ただ「逆らってはいけないよ」と父に言われるまま、怖い軍人の人の中を歩くルオンと家族。

最初に父が殺された 歩く家族(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

題名が「最初に父が殺された」なもんだから

突然現れたクメール・ルージュに促されて街を出るシーンから緊張感がすごい。クメール・ルージュは「米軍の空爆があるので避難せよ」とまくし立てるものの、それ以前に「父が死ぬんでしょ?しかも最初に死ぬんでしょ?」という考えが頭をよぎって仕方がない。そしてそれをトリガーに不幸が始まっていくと思うと不安でいっぱいである。実際銃を持った男が近くに現れるだけでこっち(視聴者)はビクビクである。

最初に父が殺された ルオンと父(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

 

クメール・ルージュとオンカー

オンカー:カンボジア語で「組織」のこと。ポル・ポト政権時代、政権を動かしていた幹部たちのことを「革命組織」すなわち「オンカー」と呼んでいた。この時代はすべてが「オンカー」によって決定され、国民はみな「オンカー」のために心身を捧げ、忠誠を尽くさなければならなかった。関連用語集

作中でよく出てくるオンカー。一度だけアンカーと字幕が出るシーンがあって誤字だろうかと思ったけれど、アンカーと呼ばれる場合もあったらしい。クメール・ルージュが自分たちの組織を指して「オンカー」と呼ぶようだ。最初に父が殺された クメール・ルージュ(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

監督アンジェリーナ・ジョリー

「最初に父が殺された」は題材がベトナム戦争期のカンボジア。ネットフリックス配信以前に行われた試写会の評価がとても高かったのと、アンジェリーナ・ジョリーが養子にした子供の一人がカンボジア人だったのもあってとても気になっていた。養子とは言え子供のルーツである国の悲劇を、母が適当に作るはずがない!とは思っていたが結論から言えば演出的に足りていない部分なんて一切なかったように思える。視聴時はてっきり初監督作品だと思って見ていたのでとても驚いたが、監督としては四作目にあたるそうだ。

最初に父が殺された 歩くルオンと家族(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

 

「最初に父が殺された」の時代背景

虐殺、拷問、内戦・・・カンボジアの闇の歴史ポルポト政権時代とは?

ネタバレというよりは史実だけれど、調べるとわかりやすく書いている方がいらっしゃったので、気になる方は上記リンクを読めばざっくり時代背景がわかると思う。個人的にはルオンの視点で当時のカンボジアを見るという意味で、知らないなら知らないまま、知っているならそれ以上調べず見るのをオススメする。ルオン視点で入ってくる情報だけで何が起こっているかは十分理解はできると思うし、そのほうがむしろこの映画に入り込めるんじゃないだろうか。ちなみに僕はほとんど当時のカンボジアのことは知らずに「最初に父が殺された」を視聴してその後上記リンクを読みました。

最初に父が殺された 時代背景(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC

 

 

「最初に父が殺された」はもしかすると人生で最も心に刺さった戦争系映画かも ネタバレなし感想

7歳の少女の視点というフィルターを通して1970年代、ポルポト政権下のカンボジアの過酷な現実を見る。このアイディアが戦争を経験として知らない僕のような視聴者の想像力をうまく補ってくれている。正直、映画の中の戦争で人がバタバタ死んだって、死ぬ前に相当思い入れたっぷり描いてくれないことにはなかなか感情移入はしにくい。でも目の前でお気に入りの服が無造作に捨てられるという悲しさ、くやしさなら多くを語らずとも多くの人が理解ができるだろう。例えばそれが戦争が人にもたらす負の感情の最も端的な比喩表現であって、そしてその表現こそがこの物語が、この映画がやりたかったことなのかもしれない。だとしたら大成功だと思う。ルオンの目線の高さから映すというカメラワークを定期的に挟みこむことでルオンと視聴者の視点は絶えず共有され、視聴者は彼女に起こる出来事をも共有するかのような錯覚に陥る。クメール・ルージュの支配や戦争によってルオンが大事にしていたものが壊され、踏みにじられていく様子は見ていて本当に悲しかった。もちろん戦争を経験していない僕には戦争をリアルには想像はできないけれど、少なくともルオンの悲しみは解る。ルオンを悲しませるようなことをするやつはみんな悪者だ、と思える。
正直、僕は想像が追い付かないせいなのかイマイチ戦争系の映画では感情移入できないことが多かったけれど、「最初に父が殺された」は本当に物語の中に入り込んで見入ってしまった。脚本を書いているルオン・ウンの実体験に基づいた物語であるということもショッキングではあるけれど、単に壮絶さ悲惨さばかりを追っていたらこんな風に感情移入できる作品にはならなかったんじゃないだろうか。ルオンは無力な子供であると同時に、自ら何もできないが故に観察することに長けた視点である。また映画では過酷な現実がとても美しい風景の中に常に同居するように撮影されている。口数の少ないルオン、過酷な現実、そして景色だけは常に美しい。それらのコントラストが詩的にすら見える。これらは脚本にも参加している監督アンジェリーナ・ジョリーの手腕なんだろうか。今まで見た戦争映画と比べても「最初に父が殺された」は人生で一番心に刺さった。素晴らしい映画。正直クッソ泣いた。最低な歴史はこういう形で残すのがいいと思う。

最初に父が殺された 虐殺(C) 2017 RoLEAP FILMS, LLC