【カトリック教会の闇深】Keepers
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本当にあった闇深事件 「Keepers」
2017年 ネットフリックスオリジナルシリーズ(ドキュメンタリー)
監督:ライアン・ホワイト
「Keepers」 あらすじ 概要
1969年、ボルティモアで発生したシスター・キャシー・セスニック殺害事件またその後すぐ起こったジョイス・マレキー殺害事件。依然未解決となっているその事件の真相をジェマとアビーがFacebookを使って高校時代の恩師の未解決殺人事件を追う。何故二人の女性が行方不明になり、殺害されたにも関わらず未解決のまま時間だけが過ぎていったのか。本作ではその謎を追う。
「Keepers」 1969年11月7日 キャシー・セスニックの足取り
目撃者等情報をまとめた1969年11月7日事件当日のキャシー・セスニックの足取り
11:00 キーオ大司教高校の教師であるシスター・キャシーセスニックは授業の後、生徒のジュリアナ・ファレルとおしゃべりをし、その時ジュリアナはキャリーがその夜に家族の誰かへの婚約祝いのプレゼントを買いに行くと言っていたことを覚えていた。そしてキャシーは授業を終え、15:00前後に一旦アパートに戻っている。
19:00 キャシーはアパートの駐車場から車で出る。パンを買うためにベーカリーへ寄りそれから姉妹の婚約祝いを買う予定だった。行先はアパートから約3kmのエドモンドビレッジにあるショッピングセンター。キャシーは近所の銀行へ行きお金を下してパンを買い、アパートの駐車場まで戻っているが、彼女はアパートに帰ってはこなかった。また車で誰かを待っている様子だったキャシーを午後8時30分ごろ目撃したという証言もあった。
「Keepers」 シスター・キャシー・セスニックはキーオ大司教高校で起きていたことを告発しようとしていた?
1994年、キーオ大司教高校起こっていた事件についての匿名の女性2人から告発があった。アビーとジェマが調査を続けるうちに、この告発がシスターキャサリンの殺人事件に関係してくることが分かってくる。60年代に起こっていた校内の恐ろしい秘密が徐々に明らかになると同時に、シスター・キャサリンを殺害したのがランダムキラーではなくキーオ大司教高校の関係者であるのだとしたら何故警察は犯人逮捕に至ることができなかったのか。様々な疑問が浮かび、誰かが嘘をついていることがわかる。ただ、それが誰なのか、何人なのか等まではなかなかたどり着くことができない。
カトリックの共同体という当時のボルティモアに生きること
ボルティモアはカトリック教徒が根付いた街、ローマ・カトリックの拠点でアメリカではじめて大司教区ができた場所だった。住民は肉体労働者がほとんどで、皆ちいさな長屋に住み、狭い庭を整え娘の初めての聖体拝領のためにベールをかぶせてやるという瞬間のために生きる。日曜には教会に行き、金曜は日曜を食べない。カトリックの教会へ行き、カトリックの学校へ通う。皆ミサの従者を務め、それは名誉なことであると教わって育った。そして神父は絶対的な存在。命令されたら疑わずに従うのが当然。当時のボルティモアではそんなカトリックの習慣は住民の生活の一部になっていた。
「Keepers」 隠蔽体質のボルティモア市警
ボルティモア市警の刑事にインタビューしたジャーナリストは「ボルティモア市警は腐敗しており、それこそが問題だ」と話していたという。また実際に数年の後当時の事件のことを警察やFBIに聞いて回ったジョイスの家族は市警から「捜査中で話すことはできない」と繰り返された。二人の若い女性が行方不明になり、殺されたのに何年経っても事件は解決せず、捜査の情報も公開できないという。死体が遺棄されていた場所も、人里離れた辺鄙な場所であるものの、街からは十分近い場所。車にも死体遺棄現場にも決定的な物的証拠がないと繰り返す警察の発表には違和感がある。でももしボルティモア市警が腐敗し、何等かを隠蔽しようとしていたとしても何故2人の事件が隠蔽される必要があったのか。一体犯人は誰だったのか。作品が先に進む度に数多くの謎が浮き上がり、そして漂い続ける。
「Keepers」 感想
ハノーバー高校落書き事件(American vandal)(ドキュメンタリー風ドラマ)とは違い、未解決事件を事件発生から50年近くになる今なお真相を追う人たちの本物のドキュメンタリーである。それ故により事実に基づいた考察が行われ、またいろいろな方向から事件を探っていくというものになっている。作品としては毎話ラストには新しい謎や、新事実が出てくるような作りになっていて、先が気になるようにできている。明かされていく内容はかなりショッキングなものが多く、事実は小説より奇なりとはいうものの、このドキュメンタリーだけ見るとボルティモアの大聖教区における腐敗した内部体制ばかりが目につく。世間的に言えばただの凶悪犯のような男が、カトリックという大きな組織の顔を汚さないがためにカトリックの神父であるという理由だけで守られていくという構造が浮き彫りになる様は見ててとても不気味で気持ちが悪い。例えばイスラム教と言えば過激派ばかりが目につくが、それは一部であるように、キリスト教のカトリックの中、そしてボルティモアの一部の話だということはわかっているものの、事件にかかわった組織や人間の被害者に対する態度などを見ていると、カトリックという宗派について若干疑念を持ってしまいそうになる。なんせ聖職者と呼ばれる人たちが驚くほどゲスなのだ。教会内部の人間が問題を起こすとハタから見るとこんな風に外から見えてしまうからこそ教会は隠蔽体質になるのだろうけれど…。
一方では、カトリックの神父という生涯結婚はおろか、性行為すら許されないという抑圧されたポジションの人間が、強い立場になると一体何をするか、という社会実験のようにも見える。特定の宗教の是非について語るつもりはないが、聖職者という立場を利用してゲスの限りを尽くすような人間がいると知ることは本当に胸糞が悪い。だが、そもそも神父というポジションが多く男性にとってフィットするような役職ではなく、よくも悪くも人間的ではない職業であると考えると、そもそも何が悪いのか、悪かったのか、もっと言えば、人の本質とは性悪説か性善説か、等と考えるような複雑な気分になる。ドキュメンタリー作品である本作は、視聴者が興味深く見続けられるようにはなっているものの、ドキュメンタリーという性質上事実を映すことに終始しているため、実際モヤっとすることも多いと思う。また、被害者視点で映されていくため、教会内でどのような意見が出て、どのような議論がなされ、結果被害者への対応として視聴者が見ることになったのかという経緯は見ることができない。そして事実としてこれだけ大きな事件で、かつ大がかりな隠蔽に50年近く誰も真相にたどり着くことができなかったという部分に僕は戦慄した。なかなか万人受けはしないとは思うし、ストーリーとして考えると若干弱いが十分興味深い作品だったと思う。
「Keepers」で出てきたfacebook page
作中で登場したアビーとジェマの活動の拠点のなったfacebookは以下。読んでしまうとネタバレになってしまうと言えばそうだけれど、「Keepers」配信以後に起こった出来事なんかも書いてあるので本作を見た後に読んでみるのも面白いと思う。特に最終話で進行中だった話が進んでいたりする。ただ更新内容はさほど多くはない。
Justice for Catherine Cesnik and Joyce Malecki