Netflixドラマ「メシア」レビュー
救世主かペテン師か、「神のみ言葉」と自称する男が世界を翻弄する
原作・制作:マイケル・ペトローニ
出演:ミシェル・モナハン、メディ・デビ、ジョン・オーティス、トメル・シスレー、メリンダ・ペイジ・ハミルトン、ステファニア・オーウェン、Sayyid El Alami、ジェーン・アダムス、ウィル・トラヴァル、Fares Landoulsi
ジャンル;政治をテーマにしたTV番組・ドラマ
TVサスペンス、TVヒューマンドラマ、アメリカ/TV・ドラマ
「メシア」 あらすじ
(C)NETFLIX WORLDWIDE ENTERTAINMENT, LLC
シリアの首都ダマスカスにISLSが侵攻する中突如説教を始めた若者(メディ・デビ)は神が民を生かすため敵を撃退するという。民衆は彼の言葉に耳を貸すものの、陥落間近と言われていたダマスカスでは彼の言葉は世迷言にしか受け取られなかったが、彼が「神が敵を追い返す」と繰り返すうち突如砂嵐がダマスカスを襲い、結果としてISLSは撤退することとなる。
この出来事をきっかけに若者は”メシア”として信奉者を急速に集めることになる。
メシアとは
メシアは、ヘブライ語のマシアハ(משיח)に由来し、「(油を)塗られた者」の意。
出エジプト記には祭司が[2]、サムエル記下には王が、その就任の際に油を塗られたことが書かれている。後にそれは理想的な統治をする為政者を意味するようになり、さらに神的な救済者を指すようになった。ユダヤ教の終末論においては、メシアの概念は、ダビデの子孫から生まれ、イスラエルを再建してダビデの王国を回復し、世界に平和をもたらす存在とされている。
そもそもユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同じ宗教から派生したものであり、名前は違うものの同じ神を崇めるものである。一方で終末論の中でたびたび登場するメシアという概念はそれぞれの宗教にそれぞれの形で継承され「世界に平和をもたらすもの」信じられている。ちなみに作中で若者が呼ばれるようになる「アル・マスィーフ」という名はイスラム教におけるイエスの尊称である。
「メシア」 登場人物/キャスト
エヴァ・ゲラー(ミシェル・モナハン)
メシアを追うCIA捜査官。
メディ・デビ(アル・マスィーフ)
アル・マスィーフと呼ばれる若者。自らを「神のみ言葉」となのり、人々を先導する。
フェリックス(ジョン・オーティス)
資金繰りに行き詰り信仰心も薄れかかった牧師。
レベッカ(ステファニア・オーウェン)
牧師の娘。狭い田舎町から出ようと考えている。
「メシア」 ネタバレなし感想
(C)NETFLIX WORLDWIDE ENTERTAINMENT, LLC
メシアと思しき後に「アル・マスィーフ」と呼ばれるようになる若者が本物か偽物かという部分も追いながら、奇跡を起こす存在が世に現れた時、人は、世界はどうなるのかを描いた作品。例えば、一部の過激派イスラム原理主義者たちのせいでイスラム教がなんとなく危ない思想であるような感じがしてしまうが、このドラマではその手の偏見が少なく、同時にキリスト教の痛い部分も描くことでアメリカ製作ながら宗教を信じる人たち、またメシアの存在に翻弄される人たちの危うさをフラットな目線で映していくため、結果としてかなり攻めた作風になっているのではないだろうか。
各宗教に対する直接的な批判はないように思われるが、例えば僕ら日本人のように多く信心深くない国の人間が見るとイスラム教であろうがキリスト教であろうが特に「信仰心の強い人々」に対する違和感を覚えずにはいられない。またフィクションでありながら、実際の各宗教観は実在するものとおそらく(細かい部分まではわからないが)同じであり、作中で聞く宗教的なセリフが現実のニュースで聞くような出来事、事柄にリアリティを与えるようかのように思えた。例えばカトリック教会が中絶を禁止していてレイプされた末の妊娠だとしても中絶をすることを許しておらず、実際にアメリカのいくつかの州では州法として中絶が禁じられているという事実がある。例えばそういった日本の常識であれば信じられないような常識や観念は個人的にはなかなか受け入れにくいが、例えば中絶禁止が宗教というアイディアの上に成り立っているという現実がある。そういった宗教をベースにした(現実問題に沿っていないと思われるような)考え方が実際に存在することを踏まえてこの「メシア」を見ると、もう一歩踏み込んで楽しめると思う。同時に僕はこんな人間が世に出てきたら世界は本当に混乱するのかもしれない、と恐ろしさを感じた。
一方ドラマとしてどうかと言えばストーリー性はさほど強くなく、展開も結構ゆっくりで視聴感はドキュメンタリーを見ているかのよう。興味深い内容ではあるものの、実際僕も2度ほど見ながら眠ってしまったこともあり疲れている時にはオススメしない。サラっと楽しめるドラマではないとは思うけれど、それゆえに新しさがあるドラマだと思う。IMdbでの評価も高めであることからシーズン2もありそうだが、まだアナウンスはない状態だ。