樹木希林が名演すぎる映画「あん」
(C)映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE
「あん」 2015年 日本 1時間53分
監督 ・脚本:河瀬直美
原作 :ドリアン助川
出演者: 樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅
あらすじ
雇われ店長として千太郎が働くどら焼き屋にバイト募集の貼り紙を見て訪ねてきた老婆徳江は、あん作りの名人だった。彼女のあんのおかげで大して繁盛もしていなかったどら焼き屋の客足は大きく伸びることとなる。やがて徳江の人生には、過酷で壮絶な秘密があることがわかってくるが…。生きる目的を見失っていた千太郎が、社会からいわれのない差別を受けて生きてきた老婆の魂に触れる出会いを描く。
2017年5月27日より公開の映画「光」の河瀬直美監督作品
そもそもラジオでの現在公開中の「光」という映画紹介の中で、永瀬正敏と河瀬直美監督のタッグで「光」の前に「あん」という名作を撮っていて…、とラジオDJが話していたところから気になったので調べるとネットフリックスで配信している、と。これもう見るしかないでしょう。「光」も結構気になる内容だったのだけれど、河瀬監督ってどんなもんだろうとまず「あん」を視聴。これがなかなか素晴らしい”邦画らしい邦画”でした。この映画が描こうとしていることは文学的というか、きっとわかりやすいものではないとは思います。多分じっくりと真剣に見ないと伝わらない、気軽に見ても面白くない作品かもしれませんが、僕の中でおすすめしたい邦画のうちの一つになりました。
樹木希林の名演
撮影は「よーいスタート」をかけずに樹木希林と永瀬正敏の自然なやり取りの中で生まれたものを切り取るようにして行われたそうです。しかも二人は他人同志の設定のため、撮影の”合間”は私語厳禁。そんな徹底した演出のおかげか、樹木希林演じる徳江が本当に「その辺にいるおばあさん」に見えました。日本アカデミー賞で優秀主演女優賞を取ったのも納得のリアルさ。このリアルさがあったからこそ、本作のテーマが生きてくる。「あん」は本当に樹木希林なしでは成立しないと思えるほど、彼女の名演が光りました。
内田伽羅
主演の樹木希林の孫らしいけど、オーディションを通してワカナ役をつかんだらしい。この子もうまいのか下手なのか、妙にリアルな中学生を演じていた(素?)ように思います。映画を見ているときはこの素人?とか思っていましたが下手に芝居っぽさがないのが今思えばよかったように思えます。この子の他人行儀な感じも撮影の”合間”私語厳禁から生まれているのかもしれません。
ネットフリックスで見るならセッティングが重要
一見不可解な老婆ならではの感性を持って、小豆と語りあうようにあんを作る徳江に序盤は「なんだこのババア」と思うかもしれませんが、一度映画に入り込んでしまえば、徳江の一言一言に彼女の人生観を垣間見るような、話が進むにつれて自分の中に彼女のアイディアが入ってくるような、そんな感覚に僕はなりました。それはどんな感覚かっていうと例えば、河瀬監督はとても風景を大事に撮っていて自然に風景ショットを入れてくるんですが、映画の最初と最後ではその風景の見え方が違うように感じた、みたいなそんな感覚です。家で見るならちゃんと見る環境を整えて真剣に見るのがこの映画を楽しむコツだと思います。正直この映画は映画館で観たかったです。
ハンセン病(らい病)という病気
作中に出てくるハンセン病ですが、病名はなんとなく聞いたことあるなぁ程度の認識しかなく、1996年にらい予防法が廃止されるまで患者が隔離され、また現在もなお差別をうけているという事実を僕は知りませんでした。もともと「らい」と呼ばれていたそうですが、偏見や差別を生むとして現在では「ハンセン病」と呼ばれるようになったようです。患者は隔離されていたこともあり、ハンセン病について差別があるという事実もなかなか世間に知れることはなかったそうです。ハンセン病でググればわかると思いますが、結構なグロ注意です。確かに差別してしまう心情がわからなくはない、咄嗟に思ってしまうほどのビジュアル的衝撃はあると正直僕は思ってしまいました。
でも映画の中ではそんなにショッキングな映像は飛び出しませんので安心してください。映画として大事なのは病気にそういう差別偏見があったという背景であって、差別や偏見自体がメインテーマではありません。ではメインテーマは何かって?それはぜひ映画をご覧になってください。「あん」には派手さやエンターテイメント性はあまりありませんが、僕は名作だと思います(でもやっぱり人に勧めにくいのでお勧め度はそこまで高く書けませんけど)。
ハンセン病の原因は:
らい菌です。結核菌等と同じ抗酸菌という細菌です。試験管内での培養には成功していません。らい菌増殖には31℃前後が至適温度ですどんな病気ですか:
皮膚と末梢神経の病気です。皮膚症状は多彩で、一見しただけで診断することは困難です。皮疹は痒みが無く、知覚(触った感じ、痛み、温度感覚など)の低下などを認め、気づかないうちにケガやヤケドなどを負うこともあります。また運動の障害を伴うこともあります。診断や治療が遅れると、主に指、手、足等に知覚マヒや変形をきたすことがあります(後遺症)感染するのですか:
感染し発病することは稀です。乳幼児期に多量かつ頻回にらい菌を口や鼻から吸い込む以外まず発病しません。日本において感染源になる人は殆どいません。もちろん遺伝はしません治療はどうするのですか:
抗生物質を内服します*。ハンセン病は治る病気ですが、早期診断、早期治療、確実な内服を心がけ、後遺症を残さず耐性菌を作らないようにすることが大事です。らい菌が多い(多菌型)患者には1年から数年、らい菌の少ない(少菌型)患者には6カ月の内服で治癒します。